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西武新宿線の高田馬場駅は私の通勤駅ですが、近くに施設があるので、駅では目の不自由な人をよく見かけます。
もう6~7年前のことになりますが、30歳代の全盲の女性が駅の壁に勢いよく音を立ててぶつかりました。すぐ近くにいた私は、一瞬ためらいましたが、思い切って彼女に声をかけ、改札口まで手を貸してあげたのです。それだけのことでしたが、私は、なんだかとてもいいことをしたような気分になって、その日は1日爽快でした。喜びを与えるより与えられたといった感じの出来事でした。けれどもその時は、それから1年ほど後に、今度は私が彼女と同じような立場に立とうとは、思いもよりませんでした。
5年ほど前から私は、原因が必ずしもはっきりしない一種の難病にかかり、スムーズに歩けない状態が続いてきました。調子がとても悪かった時は、高田馬場駅の中で何度か立ち止まり、次の一歩が出るまで数分もかかることがありました。そんな時、手を貸してくれる人もいて、随分助けられました。が、時にはこちらから声をかけて助けを求めることもあり、そのような時は、心の中でこう思ったものです。「困った時にSOSを発する方法はないだろうか? 例えばハンカチを振るのはどうだろう」と。
ある日の意学環境研究所の講座の中で、以上のようなエピソードを話しましたら、京子先生はびっくりするほどの関心を示してくれました。そしてこのことが、『ヘルプの喜び運動』が始まるきっかけとなったのです。
困って手を借りたい時に、ばら色のハンカチを振ります。そうすれば雑踏の中で手を借りるために大声をあげたり、歩くのが困難な人を見かけた時なども、声をかけてよいのかどうかを戸惑ったりすることはなくてすむでしょう。特に目の不自由な人にとっては、盲人用信号機のない道路を横切る時や、電車の中で空席に座りたい時などには、ばら色のハンカチを振って助けを求めればよいと思います。
そのことで、助けてもらいたい時に、助けてもらえるようになる喜びはもちろんですが、助けを求めるサイン役を、ばら色のハンカチがしてくれることで、人助けがしやすくなります。そして何より大切なことは、適切な人助けができた人が大きな喜びを知ることになることです。助けられる人も、助ける人も喜びあえる、そんな心を広げていけたらどんなにいいでしょう。
どうぞ皆様、こうした『ヘルプの喜び運動』を広めることに、お手を貸してください。

発起人
寄本勝美
略歴
早稲田大学政治経済学部教授
早稲田大学政治経済学部長
早稲田大学常任理事